2011年01月21日

vol.5 田村景福.1

1.「白い大きな花を月に見立てたもの」には、とても見えません。

鳥居恒夫著『色分け花図鑑・桜草』98ページ’瑶台の夢’の項より抜粋。
瑶台の夢(ようだいのゆめ):大正7(1918)年 田村景福発表
花弁の裏側は淡桃色で時に筋斑、表は酔白色。
瑶台とはお月様のことで、白い大きな花を月に見立てたもの。遙台では間違い。
(「遙」は「遥」の旧字体なので、此処では以降「遥」を使います。)

加藤亮太郎著『日本桜草』(加島書店)昭和34年5月発行 69ページ
本郷駒込富士前には、田村景福氏があり、熱心な実生家で、
雨乞小雨、塩煙、秀美、手中の玉、藤下水、’搖台の夢’、夕陽紅、などを残されたし、云々。

鈴鹿冬三著『日本サクラソウ』120ページ田村景福氏(本郷駒込富士前)
熱心な実生家で、雨乞小雨、塩煙、秀美、手中の玉、藤の下水、’搖台の夢’、夕陽紅、などを残された。
(「搖」は「瑶」の旧字体なので、此処では以降「瑶」を使います。)

どうやら’瑶台の夢’で正しいようです。
それでも、鳥居氏が述べることは鵜呑みにできません。

ネットで『遙台 意味』『遥台 意味』で検索すると
もしかして: 『遙 意味』『遥 意味』と出ました。
本当に『遙台(遥台)では間違い。』のようです。

次ぎにネットで『搖台 意味』『瑶台 意味』で検索すると
『搖台 意味』では、旧字体のせいでしょうか、参考になるサイトがヒットせず。
『瑶台 意味』では、辞書サイトがヒットしたが、内容はコピペに近い。
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・国語辞書 - goo辞書
 よう‐だい〔エウ‐〕【×瑶台】
 1 《殷(いん)の紂(ちゅう)王の作った台の名から》玉で飾った美しい高殿。
 2 月の異称。
・Yahoo!辞書 大辞林 (国語辞書)[ 大辞林 提供: 三省堂 ]
 ようだい[えう―] 0 【▼瑶台】
 玉で飾った美しい御殿。玉のうてな。玉楼。
・Yahoo!辞書 大辞泉 (国語辞書) [ 大辞泉 提供: JapanKnowledge ]
 よう‐だい〔エウ‐〕【×瑶台】
 1 《殷(いん)の紂(ちゅう)王の作った台の名から》玉で飾った美しい高殿。
 2 月の異称。
・kotobank デジタル大辞泉の解説
 よう‐だい 〔エウ‐〕 【×瑶台】
 1 《殷(いん)の紂(ちゅう)王の作った台の名から》玉で飾った美しい高殿。
 2 月の異称。
・瑶台とは - Weblio辞書 三省堂 大辞林
 ようだい えう― 0 【▼瑶台】
 玉で飾った美しい御殿。玉のうてな。玉楼。
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調べてみたものの、’お月様の夢’では、意味不明である。
『瑶台とはお月様のことで、白い大きな花を月に見立てたもの。』
というが、田村景福発表の’瑶台の夢’は
『花弁の裏側は淡桃色で時に筋斑、表は酔白色。』
であり、到底お月様には見えないし、
作出者は絶対に想いを託して命名しているはず。

今度はネットで
『遙 意味』『遥 意味』
『搖 意味』『瑶 意味』
で検索してみた。
『遙』と『遥』は、子供の命名のための漢字の意味を紹介しているサイトが多くヒットした。
「細く長く続く」「遠くまで眺望が開けているさま」
「遥かかなたにあるさま・細く長くゆらゆらと続いているさま」スケールが大きいイメージ。のようです。
『搖』と『瑶』は、あまり意味は無いようだが
「玉のように美しい」という意味から、子供の名前に使われているようです。
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よう【×瑶〔瑤〕】
[人名用漢字] [音]ヨウ(エウ)(呉)(漢)
美しい玉。また、玉のように美しい。「瑶台」
[名のり]たま
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Yahoo! 知恵袋トップ > 言葉、語学
[名]たま。白く美しい玉(出典元不明)。
[形]たま。玉のように美しいさま。あかぬけして輝く美しさをほめることば。「瑶顔(ヨウガン)」
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上記でも納得できないので、
『瑶台 意味』でヒットした辞書サイトで、『月』を検索してみました。
一件だけ、お月様と違う意味がみつかりました。
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・kotobank デジタル大辞泉の解説
がち 〔グワチ〕 【▽月】
1 《謡曲「松風」の「月は一つ、影は二つ、三つ(満つ)汐(しほ)の」からという》
 江戸時代、上方の遊里で、揚げ代1匁の下級女郎のこと。汐(3匁)・影(2匁)の下位。
2 《「がんち(頑痴)」の音変化か》色道に慣れないこと。不粋なこと。また、その人。野暮。
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’女郎の夢’
’野暮な野郎の夢’
これなら意味が通じます。納得♪
作出者不明ですが’女郎花’という品種名があります。
溝口正直氏の作品には’処女の舞’もあるので、間違いないでしょう。

って、これが正しい分けがありません。
浪華さくらそう会『日本桜草総銘鑑(最新版)』をもとにまとめた
2010年03月23日『作出者一覧表』を見てもらえば感じ取っていただけると思いますが、
作出者毎に、命名に何かしら関連性がみてとれます。

下記は溝口正直(明治)の作品一覧ですが、
私の勝手な印象として、品種名に艶があるというか大人の夜の情緒を感じ
’処女の舞’などはには見習い中の踊りの連想させ
『溝口正直氏という人は、芸者あげての遊びが好きだったんだろうなあ』と思わせます。
青霞、薄雲、古金襴(明38)、小町の舞(明38)、彩色班々、笹の波、掌中玉、処女の舞、白鷺(同名異種あり)、大朱冠、立田錦、初 日影、花曇、花摺衣、花の丘、花の冠(明38)、花の滝、花の玉章、春霞、萬里響、人丸(同名あり)、故郷の雪、星月夜、深雪笠(明38 最大輪)、八橋(明38)、許の色、蘭奢待。

下記は田村景福の作品一覧です。
雨乞小町、汐煙・塩煙、秀美、手中の玉、花孔雀(手中の玉と同じか)、藤の下水、夕陽紅、瑶台の夢。
命名には日常の風景を題材している印象を受けます。’夕陽紅’は、夕陽のように赤い花であることが伝わりますし
’藤の下水’など見た事ありませんけど、
雨上がりの藤棚の下に溜まった水たまりに映った、藤色の花であろうと情景までも推察できます。
そんな田村景福氏が、’女郎や野暮な野郎’を命名する分けがありません。

しかし、それでも’お月様の夢’というのには納得しかねます。
田村景福氏の命名に、’お月様’という情景はありませんもの。
そこでネットで『瑶台』と検索して、用例をみてみることにしました。
・瑶台_广州瑶台_瑶台公交_广州瑶台公交
・ぐるなび海外版 広州 - 嘉利美食(瑶台店)
・YouTube 魂化瑤台夜合花 新馬師曾001(動画)
上記3件を参考にして考えてみると、広州に 瑶台という町が在るみたいですね。
動画『魂化瑤台夜合花 新馬師曾』を見ても理解できませんでしたが
男女が夜に落ち合って、逃走(亡命。駆け落ち?)するような印象を受けました。
瑶台=月だとして
『月の町』『月町』『男女が月夜に落ち合って、逃走』
では変です。シックリきません。
でも瑶台=月明り、月光と解釈すると
『月光町』『月明りの夜に男女が落ち合って、逃走』
となり私は合点がいきます。

瑶台=月ではなく、
瑶台=月明り、月光と解釈するのではないでしょうか。
そう考えると田村景福氏作出は’月明りの夢’’月光の夢’と読み取れます。
月明かりに照らされた白い花なら酔白色に納得。裏側の淡桃色は月影でしょうか。
『花弁の裏側は淡桃色で時に筋斑、表は酔白色。』のイメージにも合います。

鳥居氏は著書『色分け花図鑑 桜草』(学習研究社)の40ページ『紅天鳴鶴』の項に、
『「江天鳴鶴」と書いたものもあるが、「紅天鳴鶴」でないと、意味をなさない。』
と、花容を見たままのこじつけを行いました。
’瑶台の夢’では、辞書でひいた意味をそのままこじつけ
『瑶台とはお月様のことで、白い大きな花を月に見立てたもの。』
と解説文に書いたのでしょうね。
裏側は淡桃色で時に筋斑、表は酔白色の花容を、月として見ろ。というのは無理がありますよ。

第一、粋な江戸に生まれ、西洋文化の波の中で育った明治大正の人に、
瑶台=月というストレートな発想はもたないと思います。
見た目通りなんて、粋じゃありません。不粋で野暮というものです。
田村景福氏が己を不粋で野暮と自覚していて、自傷的に’不粋で野暮な野郎の夢’。なんて命名するわけもありませんしね。


以上、戯言を述べましたが
ネットで『瑶台 漢詩』で検索してみると、桜草の品種名の出典元が色々でてきました。
『玉で飾った美しい御殿。玉のうてな。玉楼』という意味が多いように感じます。
ロゴスの庭園『李白』では、’月の世界’と解説されいます。
’月の世界の夢’’月の夢’。瑶台=月で良いのかも。

ロゴスの庭園『李白
清平調詞 三首 其一
雲想衣裳花想容  雲には衣裳を想い、花には容(よう)を想う
春風払檻露華濃  春風檻(おばしま)を払って露華濃(ろかこまや)かなり
若非群玉山頭見  若(も)し群玉山頭(ぐんぎょくさんとう)を見るに非(あらず)んば
会向瑶台月下逢  会向(かならず)瑶台(ようだい)月下において逢わん
雲には楊貴妃の衣を連想し、花を見てはその姿を連想する
春風が楊貴妃のもたれる欄干に吹き、花に宿る露が艶やかに光って揺れる
美しい天女が住むという群玉山か、月の世界のうてなでなければ、
このような美しい人には逢えないだろう

ティェンタオの自由訳漢詩 315
李白66 清平調詩三首 其一 清平調詩 三首  其の一
詩中に「群玉山」とか「瑶台」が出てくるのは西王母(せいおうぼ)が棲むという伝説の山であり、
楊太真の美しさはこの世のものでないと褒めたたえています。

また、こんな漢詩もありました。今回の話しに関係はないのですが、
『瑶台』を英訳すると、
fairy(妖精)、fairyland
【不可算名詞】 妖精[おとぎ]の国.
[単数形で] この上なく美しい所; 夢幻郷,桃源郷.
と出るのが不思議でしたが、出典はこの漢詩かもしれません。

漢詩の世界.6『古朗月行 (ころうげっこう)
李白(盛唐)
 小時不識月(しょうじ つきをしらず)
 呼作白玉盤(よんで はくぎょくばんとなす)
 又疑瑤台鏡(また うたごう ようだいのかがみ)
 飛在碧雲端(とんで へきうんのはしにあるかと)
◎これは、もっと長い詩(楽府)の最初の四句。
☆瑤臺-仙女の居所。
小さいときは月をしらなかった。
白玉盤と呼んでいたこともあった。
また、仙女の鏡が空を飛んで青い雲の端にひっかかっているのかと思った。

Yahoo! 知恵袋に瑶台の意味として
『[名]たま。白く美しい玉』と答えていた人がいましたが、
此処から勘違いして書いたのかしら・・・。

漢詩の話しはこれで終わります。
私は漢詩自体知りませんし意味も解らないので、面倒になり、これ以上は探せませんでした。(^^;  

Posted by さくら at 19:00Comments(0)日本桜草について

2011年01月21日

vol.5 田村景福.0

ネットサーフィンで桜草に関する記事を読んでいる時、
と或るBlogで、気になる記事と遭遇しました。
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’瑶台の夢’(ヨウダイノユメ)。
色分け花図鑑・桜草(学習研究社)によると、
「瑶台」とは「月」のことで、「白い大きな花を月に見立てたもの」なんだとか。
ラベルには「遥台」と書かれていますが、「瑶台」の間違いですね。
去年買い集めた桜草には誤品がたくさんありましたが、
こんな名前の書き間違いもいくつかあるようです。
あまり馴染みのない言葉なので、どこかで間違えるとそのまま広まってしまうのでしょう。
検索すると幾つか出てきますね。
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色分け花図鑑・桜草(学習研究社)といえば
さくらそう会世話人代表鳥居恒夫氏の詐術に溢れた著書です。
上記Blogにも’瑶台の夢’の花の画像は載っていましたが
その花容は「白い大きな花を月に見立てたもの」には、とても見えません。

さらに
『こんな名前の書き間違いもいくつかあるようです。』
と言われますが、そうかしら。

また
『あまり馴染みのない言葉なので、どこかで間違えるとそのまま広まってしまうのでしょう。
 検索すると幾つか出てきますね。』
と書かれ、『’遥台の夢’』でネット検索をされリンクを張っていました。
リンク先をみてみると、多くのサイトが’遥台の夢’を使っているようです。
これをみて『誤字のまま広まることなど、あるのだろうか?』と疑問に感じました。

そこで調べてみることにしました。

  


Posted by さくら at 18:59Comments(0)日本桜草について